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過去のお知らせ

The 5th Meeting of the Asian Network of Research Resource Centers 報告

ANRRC   理化学研究所バイオリソースセンター

2013年10月30日 – 11月1日、理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)の主催により、湘南国際村センター(神奈川県三浦郡葉山町)にて、バイオリソースの整備を通してアジア地域の科学、技術、イノベーションの振興に貢献することを目的に発足したAsian Network of Research Resource Centers (ANRRC) 第5回会議が文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の協賛で開催された。

本会議ではアジア各国のバイオリソース整備に携わる15カ国の機関から128名の参加があり、各国のバイオリソース整備の現状を報告(Report from Each Institute)(7題)するとともに、Biodiversity(3題)、Biobanking(6題)、Plant(4題)、Data Management(5題)、Microbe(5題)、Animal(5題)、Alga(5題)の口演及びポスターセッション(49題)での発表が行われた。企業展示には3社が参加した。Committee MeetingはIT CommitteeとBiobanking Committeeに加え、新たに設置されたInternational Affairs Committee、Biodiversity Committeeの会議が開催された。理研からは、大江田憲治理事、小幡裕一BRCセンター長を始め口頭6題,ポスター9題の発表を行った。

理事会においてANRRC憲章の理事の任命に関する規定の改定が行われた。また、名古屋議定書に関して、非営利学術研究における遺伝資源の自由な利用の確保についての声明文を作成し、参加した理事全員(9ヶ国、11名)が署名した。

なお、第6回会議は中国にて開催される予定である。

   

◎ セッション

Opening & Plenary Lectures

理研BRC小幡センター長並びに文部科学省古田裕志ゲノム研究企画調整官から開会にあたっての挨拶があった。 Yeonhee Lee 所長(Korea National Research Resource Center:KNRRC、韓国)から「The first 5 years of ANRRC」、大江田理研理事から「Japan's leading comprehensive research institution for the natural sciences」という題名で講演があった。

Report from Each Institute
座長: 小幡裕一博士(理研 BRC)、Yeonhee Lee博士(KNRRC)

韓国、タイ、フィリピン、日本、中国、オーストラリア、インドネシアから各国のリソースセンターの状況についての報告があった。Yeonhee Lee KNRRC所長はKNRRCの最近の活動について、Lily Eurwilaichitr 博士 (Bioresources Technology Unit, National Center for Genetic Engineering and Biotechnology: BIOTEC、タイ)はタイにおけるカルチャーコレクションの現状について、Maria Auxilia T. Siringan 博士(Natural Science Research Institute、フィリピン)はフィリピンの 水生環境 における微生物について、小原雄治博士(国立遺伝学研究所:遺伝研、日本)は文部科学省NBRPの状況について報告した。コーヒーブレイクをはさみ、Juncai Ma 博士( Institute of Microbiology, Chinese Academy of Sciences:IMCAS、中国)はIMCASにおけるMicrobiological Resource Centerの状況について報告し、Jane Carpenter 博士 (University of Sydney、オーストラリア)はAustralasian Biospecimen Network Association (ABNA)、Australian Breast Cancer Tissue Bank (ABCTB)及びInternational Society for Biological and Environmental Repositories (ISBER) について報告した。Endang SR Hardjolukito 博士 (University of Indonesia- Cipto Mangunkusumo Hospital、インドネシア)はインドネシア研究用バイオバンクについて報告した。

Session 1. Biodiversity
座長 : Shyam Kumar Sharma博士 (CSIR-Institute of Himalayan Bioresource Technology、インド)

このセッションでは3つの報告があった。座長のShyam Kumar Sharma 博士は、インドのバイオリソースの現状を報告した。アジアは生物多様性ホットスポットの集中している地域であり、インドは世界34のうち3のホットスポットを有している。生物多様性条約(CBD)発効の1993年以降、インドではbioresourceの本来の価値より価格が常に低いことが問題視されており、bioresourceの適正な価値の設定が必要と訴えていた。インドはbioresourceへのアクセスについて、条約に基づいたMutually Agreed Terms (MAT)の締結を要求している。鈴木睦昭博士 (遺伝研、日本)からの大学や研究機関の使用についての質問に対し、海外向けには同意書(agreement)を基にした研究プロジェクトを基盤とした共同研究とし、無償で提供すると答えた。Le Mai Huong 博士(Institute of Natural Products Chemistry、ベトナム)はベトナムのバイオリソースの現状、特に、海産生物とキノコ類に由来する化合物の探索と製品化した化合物について報告した。鈴木睦昭博士は、名古屋議定書について、議定書に係る各国の法案作成がbiological resourcesとgenetic resourcesとの違いなど英語を母国語としない国での言葉の定義の違い等、議論の途上であることを発表した。EUと日本の現状について、CDBは現在193カ国が締約しているのに対し、名古屋議定書は25カ国であること、EUは2014年7月末の議定書締約を目標にしており、EUが締約すれば議定書発効に必要な50カ国に一気に近づくこと、日本では名古屋議定書について、国内措置の議論が始まったところであることを報告した。鈴木睦昭博士はさらに、研究目的ではgenetic resourcesの無償提供が行われるべきと主張した。

なお、このセッションは演者のほか8名の聴衆のみであり、活発な議論に至らなかった。最終日の座長報告で、Sharma博士がもっと大勢の参加を呼び掛けた。

Session 2. Biobanking
座長 : Soo Yong Tan 博士(Singhealth Tissue Repository、シンガポール)

本セッションでは6つの報告があり、Biobankingにおける各国の状況や今後の情報管理、品質向上に向けた将来的な取り組みに関する演題発表があった。Katja Eydeler博士(STARLIMS、シンガポール)はリソースの量的・質的増大に対する情報管理の手段として、クラウドシステムによる管理の利便性について報告した。ヒト由来研究試料の入手に関する諸問題について、Menghong Sun博士(Fudan University、中国)、Bong Kyung Shin博士(Korea Human Biobank Network, Korea University Guro Hospital、韓国)、Soo-Yong Tan博士 (SingHealth Tissue Repository、シンガポール)、Anwar Ali Siddiqui博士ら(Aga Khan University、パキスタン)、各国バイオバンク実施者から現状についての報告があった。特にインフォームド・コンセントの内容に関する事項、試料のクオリティーを高めるための病院・病理専門家による協力の重要性については各国とも共通認識を持っていることが明らかとなった。またバンクを維持するためのファンディング、協力者へのインセンティブの付与や知的財産権の取扱に関するディスカッションも行われた。またTim Sheehy博士(Promega、米国)は試料のプロセッシングを自動化し、高品質な試料を大量に整備するシステムについて報告した。

Session 3. Plant
座長 : 小林正智博士(理研BRC、日本)

本セッションでは4つの報告があった。那須田周平博士(京都大学、日本)から小麦の研究の歴史を概観し、京都大学での小麦リソースの整備状況について報告した。特に小麦には3種類のゲノム(A,B,D)があることからゲノム解読は容易ではないが近年徐々に解析が進んでいること、さらにコア・コレクションが計画的に整備されていることを報告した。Jung A Kim 博士(Korea Brassica Genome Resource Bank、韓国)は韓国のアブラナ科植物のゲノムリソース事業について、一万種類以上の種子リソースを収集してゲノムプロジェクトの一環として分子マーカーの整備を行っていること、特に植物の病気に関する分子マーカーの整備に力を入れていること等を報告した。仁田坂英二博士(九州大学、日本)は、アサガオのリソース整備について、研究の歴史と現状について報告した。さらにアサガオの研究をサツマイモの研究へ応用する試みについて報告した。小林俊弘博士は植物培養細胞リソースの収集と管理について報告した。特に非常に困難である植物培養細胞の凍結保存の方法について最新の情報を報告した。

Session 4. Data Management
座長 : Juncai Ma博士(IMCAS、中国)

本セッションでは、4ヶ国から5つの報告があった。Juncai Ma 博士はAnalyzer of Bio-Resources Citation (ABC)について、山崎由紀子博士(遺伝研、日本)はNBRPにおけるバイオリソースのデーターベースについて、Kiejung Park 博士(Korean Bioinformation Center、韓国)はKorean Bioinformation Centerの活動について、Supawadee Ingsriswang 博士(BIOTEC、タイ)はVacciKnowlogyとChemExについて、Haejin Lee 博士(KNRRC、韓国)はKNRRCにおけるData Managementについて、それぞれ報告した。

Session 5. Microbe
座長 :大熊盛也博士(理研 BRC、日本)

本セッションでは、4ヶ国から5つの報告があった。大熊盛也博士はRIKEN BRC-JCMの活動について報告した。鈴木健一朗博士(NITE Biological Resource Center、日本)はインドネシアとの共同事業であるSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力)について報告した。Yu-Guang Zhou 博士(IMCAS、中国)はChina General Microbiological Culture Collection Center (CGMCC)の活動について報告した。Chatrudee Suwannachart 博士 (Thailand Institute of Scientific and Technological Research、タイ)は自身の研究所の活動について報告した。Iftikhar Ahmed 博士(National Culture Collection of Pakistan、パキスタン)はパキスタンにおける微生物カルチャーコレクションの状況について報告した。

Session 6. Animal
座長 : 前川秀彰博士(NBRP、日本)

本セッションではダニ類、メダカ、カイコに関して5つの報告があった。ダニ類に関しては韓国、タイからの報告があり、Tai-Soon Yong 博士(Arthropods of Medical Importance Resource Bank、韓国)からは、節足動物のリソースバンクと、ODAのプロジェクトとしてタンザニアにおいて医学的に重要な新種のカタダニを発見するとともに現地にバイオリソース関連設備を設立する事業の報告があった。Nat Malainual 博士(Mahidol University、タイ)からはダストマイトセンターの紹介があり、微量の試料でも検出可能なPCR法の開発に関しての報告があった。吉崎悟朗博士(東京大学、日本)が凍結保存されたメダカの精原細胞をドナーとしてアロ移植によってドナー由来の個体を作製する技術開発について報告した。また瀬筒秀樹博士(農業生物資源研究所、日本)は遺伝子改変カイコについて、藤井告博士(九州大学、日本)はNBRPのカイコプロジェクトに関して報告した。

Session 7. Alga
座長: 河地正伸博士(国立環境研究所、日本)

本セッションでは5つの報告があった。宮下英明博士(京都大学、日本)から藻類のクロロフィルの特徴についての報告があった。特にクロロフィルの分子種が生育環境によって変化する藻類が存在することを示した。川井浩史博士(神戸大学、日本)から藻類のリソース整備について報告があった。紅藻、褐藻、緑藻を1500種類以上リソースとして収集している。これらリソースは、ITS、rbcL、cox3などのDNA配列を決定して科レベルで分類管理している。 Qi Zhang 博士 (Institute of Hydrobiology, Chinese Academy of Sciences、中国)は、中国の湖沼などに存在するプランクトン(Peridiniopsis L.)の特徴について報告した。これらの情報をインターネットから公開しているが、英語での情報公開を進めている。JinJoo Kim 博士(Korean Collection for Type Cultures、韓国)から韓国での藻類リソースの現状について報告があった。2000種類をリソースとして収集し200種類を公開して分譲を行っている。また、技術研修やDNA配列の決定及び種の同定などのサービスも行っていると報告があった。河地正伸博士(国立環境研究所、日本)は日本の藻類と原生生物のリソースについての現状を報告した。オイル産生緑藻類 Botryococcus(ボトリオコッカス)によるオイル生産のプロジェクト研究についても報告した。