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100年ぶりに脳の主要な記憶神経回路の定説を書き換え
-海馬に新たな記憶神経回路を発見、記憶形成の謎解明へ大きく前進-

理化学研究所脳科学総合研究センター(BSI)とバイオリソースセンター(BRC)の共同研究成果が、2013年12月15日、英国の科学雑誌「Nature Neuroscience」のオンライン版で論文発表されました。

この論文は、BSIの利根川進センター長、BSI理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの小原圭吾リサーチサイエンティストらの研究グループとの共同研究の成果で、BRCからは、小幡裕一 センター長、旧動物変異動態解析技術開発チーム 三瀬名丹 開発研究員(現在の所属は自治医科大学)が貢献しています。

また、著者には含まれていませんが、旧動物変異動態解析技術開発チーム 阿部訓也 チームリーダー、実験動物開発室 吉木淳 室長も協力しています。

本研究成果全体の概要は、理化学研究所プレスリリースをご参照下さい。

100年ぶりに脳の主要な記憶神経回路の定説を書き換え
100年ぶりに脳の主要な記憶神経回路の定説を書き換え 理研は、マウスを使い、脳の記憶形成の中枢である海馬の部位で最も解明が遅れていた領域「CA2」を多角 的な手法を使い正確に同定しました。続きを見る...

本研究の中で、BRCは、「歯状回顆粒神経細胞(DGGC)に特異的なCreマウス」の作製を担当しました。

歯状回顆粒神経細胞(DGGC)に特異的なCreマウス

BRCでは、2008年から2012年にかけて、BSIとの共同研究「神経回路遺伝学に用いる脳の亜領域特異的なCreマウスの開発」を実施し、39種類128系統の「Creマウス」を開発しました。

脳はニューロンの均一な集合体ではなく、構造的にも機能的にも独立した複数の細胞集団(亜領域)から構成され、それらが相互に神経繊維束により回路を形成してコミュニケーションをしています。記憶や学習といった脳の高次機能の解明やそれらの正常な機構の失調と考えられている精神・神経疾患を理解するうえでも特定の神経回路を非侵襲的に正確に制御する実験手法が必要です。

脳の亜領域特異的なCreマウスは、特定の神経細胞に遺伝子組換え酵素Creを発現させ脳内の特定の神経回路における遺伝子操作を介して、神経細胞を標識したり細胞の機能を活性化・不活性化することのできる優れたバイオリソースです。この「Creマウス」を用いた解析法は、古典的な組織破壊実験や薬理学的手法に比べて、空間的特異性と個体間の再現性に優れています。

今回の研究成果では、上記共同研究で開発したCreマウスのうち海馬の歯状回顆粒神経細胞(DGGC)に特異的なCreマウスが、DG⇒CA2という新たな神経回路の発見に大きく貢献しました。このように脳亜領域特異的なCreマウスは今後も脳の神経回路の正確な構造や機能の解明に中心的な役割を果たすと期待されています。

論文情報

Keigo Kohara, Michele Pignatelli, Alexander J Rivest, Hae-Yoon Jung, Takashi Kitamura,Junghyup Suh, Dominic Frank, Koichiro Kajikawa, Nathan Mise, Yuichi Obata, Ian R Wickersham & Susumu Tonegawa.
Cell type–specific genetic and optogenetic tools reveal hippocampal CA2 circuits.
Nature Neuroscience, doi:10.1038/nn. 3614