酸化ストレスが、親から子に遺伝する突然変異をひきおこす

本研究成果のポイント

○ 自然に生じ、子孫に遺伝する突然変異をはじめて網羅的に検出。
○ 酸化ストレスに高感受性マウス家系を用いてごくまれな突然変異の検出に成功。
○ 環境変異原リスク評価や高精度な普遍的リソース品質管理へも扉を開く。

   

BRC新規変異マウス研究開発チームが協力した研究成果が、Nature姉妹紙「Scientific Reports」に掲載されました。

この論文は、九州大学生体防御医学研究所(佐々木裕之所長)ヌクレオチドプール研究センターの中別府雄作センター長らを中心とする研究成果で、BRCからは新規変異マウス研究開発チームの権藤洋一チームリーダーと福村龍太郎開発研究員が協力しています。

本研究全体の概要は、九州大学・理化学研究所・長浜バイオ大学の共同プレスリリースをご覧ください。

本研究の中で、BRCは、従来は検出不可能だった、まれに生じる点突然変異を、選択したマウス3個体から次世代DNAシーケンシング解析(註1)によって検出しました。さらに、検出した点突然変異の全個体検定も行い、マウス大家系の中のどの個体でどんな変異が生じどこまで子孫に遺伝しているかを明らかにしました。

   

1)解説

酸化ストレスに高感受性マウス家系の開発

すべての生物は、ゲノム上の塩基の並びとして遺伝情報を持ち、細胞から細胞へ、親から子へと正確に受け継いでいきます(註2)。一方で、その塩基の配列にわずかな違いを生じさせること(突然変異(註3))を繰り返し、子孫に伝えて、生物は進化してきました。また、突然変異はヒトの遺伝子疾患の原因にもなります。いつどこでどのような変異が起きると進化になり、また、どのような変異であれば病気の原因になるのか、突然変異の研究は遺伝学の歴史そのものとも言えます。しかしながら、突然変異はごくまれにしか生じないため、とくに、ヒトなどのほ乳類で体系だって新しく生じてくる突然変異を発見することは容易ではありませんでした。ひとつの突然変異が遺伝しているとわかっている家系は世界中で古くからたくさん知られていましたが、そのたったひとつの突然変異でさえ見つけることができるようになったのは1990年頃からです。それも1つ見つけるのに数年は少なくともかかっていました。さらに突然変異には中立なものも多く、中立な突然変異に至っては、検出は事実上不可能でした。
九州大学では、これまでに、酸化ストレス(註4)が突然変異の大きな原因の一つであることを、大腸菌などを用いて突き止め、酸化ストレスからDNAを守るための遺伝子があることも証明してきました。そういった一連の遺伝子は、ヒトやマウスにもあることが明らかになり、今回は、その代表的な3つの遺伝子Mth1、Ogg1、Mutyhをすべて破壊したトリプルノックアウト(KO)マウス(DNA中に生じた8-オキソグアニンを除去、修復できないように遺伝子を破壊したマウス)を、雌雄ペアの形で構築しました。
このペアマウスからは、次々と産仔が得られ、100匹を越える大家系となりましたが、一方で、突然変異が原因と考えられる水頭症やがんなどさまざまな異常を持つ個体も出てくるようになり、そしてついには、8世代でこの家系が完全に途絶えてしまったのです。酸化ストレスからDNAを守る遺伝子がないために、次々に突然変異が生じ絶滅してしまったと考えられたのです。

トリプルKOマウス家系に生じたごくまれな突然変異の高速高精度検出法の確立と結果

理研BRC新規変異マウス研究開発チームでは、これまで、「点突然変異マウスライブラリー」(2008年9月10日理化学研究所報道発表)のより効果的な活用を促進する基盤として、まれにしか生じない生殖細胞突然変異(註5)の検出技術を高速化・高精度化・高効率化するため、網羅的ゲノム解析に供する個体数や解析速度、一度に解析できる試料数を向上する技術開発を行ってきました。今回は、その技術を適用し、九州大学で得られたトリプルKOマウス大家系の中で、どのような変異がどのように生じ遺伝しているかを解明しました。

1.網羅的次世代シーケンサー解析による生殖細胞突然変異の検出

生殖細胞突然変異は、後の世代に遺伝するため、世代が進めば進むほど突然変異が蓄積されていると考えられます。今回の研究対象となる家系は、大きく3つの小家系に分かれていたため、それぞれの小家系から各1個体を選び、30億塩基対ゲノム2セットの中から遺伝子をコードしているとわかっている約400万塩基対2セットをゲノム全体にわたって解析しました。その結果として同定されたのが、延べ297個の突然変異です。そしてこれらは、同じ遺伝子の同じ変異は共通の祖先から由来したと考えると、独立の変異としては262個であることがわかりました(図1)。

図1. トリプルKOマウス家系に独立に生じた262個の突然変異

新しく生じた突然変異の有無を解析した3個体(365番、609番、450番)から発見された突然変異は、延べ297個、そのなかでさらに解析によって同一の変異かどうか検定し差し引くと、独立に生じた変異は262個であることがわかった。
例えば、図中赤い部分で示された変異10個は、個体450が他のいずれかの個体と共有している変異であり、この検出結果のみから、3個体すべての共通祖先である第一世代のペアに由来することがわかる。網羅的検定の結果、実際に第一世代ペアが持っていた変異は15個であり、そのうち5個は解析した3個体すべてに伝わり、残りの10個は2個体だけに伝わったものや1個体だけに伝わったものということまでわかった。

次の章に記載するように、この262個の独立な突然変異が大家系の中のどの個体から由来しどのようにこの3個体に遺伝したかを解析したところ、15個の突然変異は、この家系の初代の雌雄ペアが既に持っていました。即ち、酸化ストレス防御機構を欠損するこの家系内で、新しく生じた変異は247個でした。
 また、この家系内で新しく生じた突然変異の98.8%が、GC塩基対がTA塩基対に置換するという、酸化ストレス型のものでした(表1)。

表1. トリプルKO家系内で新しく生じた247変異の種類

この家系の第一世代ペアであるオス32番とメス44番がすでに持っていた15変異を除く247変異が、この家系内で新たに生じた変異である。これらの突然変異のDNA配列変化の種類は、98.8%に当たる244個が、これまで既に大腸菌系などで酸化ストレスによってもたらされることが知られていたG:C対がT:A対に塩基置換する変異であった。

2.検出した突然変異の網羅的検定

 BRC新規変異マウス研究開発チームでは、多数の試料の多様な突然変異を同時に解析できる「MassArray」システムを用いて、同定された262個の変異を全個体にわたって検定し、どの個体でどのような変異が発生し、どのように遺伝したかを明らかにしました。その一部を図2に示しました。
この検定の結果わかったことは、以下のようなものです。

i. この家系で生じた生殖細胞突然変異の子孫への遺伝は、すべて「メンデルの法則」に従っていました。
ii. 酸化ストレスに対する防御機構を欠損するこのトリプルKO家系では、1世代・400万塩基対2セット当たり16個程度の生殖細胞突然変異が毎世代生じていることがわかりました。これは、マウスを用いて間接的に推定されてきた突然変異率の約18倍に当たります。
図2. 個体108で新たに生じた変異の遺伝 (個体番号は、論文中図表に記載の固体番号に対応)

3つに分枝した小家系ごとにおいて、最も世代が進んでいて、かつシーケンスに適した試料の採取できた個体が、365番、609番、450番であった。この3個体由来のDNA試料を用いて、次世代シーケンサーを用いて変異検出を行ったところ、それぞれから84個、99個、114個の変異を発見した。発見したすべての変異について、「MassArray法」を用いて、家系内の全個体を解析した。「MassArray法」とは、このような、既知の多数の変異の有無を多検体にわたって高速に同時に解析するのに適した技術である。
例えば、mで示した変異は、108番オスで初めて生じ、その産仔4匹の内、3匹にヘテロ接合として遺伝した。その後赤い線で示すように子に順次遺伝し、個体365番にホモ接合として遺伝したことがわかった。また、このm変異は、個体609番に至る系図にも途中まで遺伝していたものの、個体234番と236番からの産仔には遺伝しなかったために、個体609番には伝わっていない。こういった解析から、発見した297個の突然変異すべてがメンデルの遺伝の法則に従って伝わっていることが確認できた。

2)本研究の意義

 本研究では、100匹を越える大家系の総数300近くの変異について、いつどの個体でどのような種類の変異が起き、それがどのように遺伝しているか、網羅的に同定・解析できることを示しました。この方法によって、突然変異研究を加速的に進展させ、以下のように展開することが期待されます。

i. どの個体のどの遺伝子にどのような変異が生じているか、また、その個体がどのような症状を示すかまでを適切な精度で解析できるため、例えば、マウス系統の大規模な維持・飼育において定常的に導入されれば、そこから偶然生まれた異なる複数の異常個体を、それぞれ新しい疾患モデルとして確立・利用できるようになります。
ii. 今回使用したトリプルKOマウス家系は、酸化ストレスに高感受性であるため、微量な酸化ストレスの影響を精度よく検出できると考えられます。例えば、放射線も酸化ストレス要因の一つとして知られており、放射線など、社会的に重要な環境変異原の新しい評価法として応用することができると考えられます。
iii. 今回確立した解析システムは、使用する試料数をさらに増加するなど、20倍程度精度を高めることで、一般のマウスにおいても、同規模・質の突然変異解析が、実現できると考えられます。この手法をマウスのリソース管理に応用すれば、確立した系統群はもとより、近縁関係にない個体間や、由来の不明な個体についても、十分な数の突然変異の有無を手がかりに、系統の由来や、中立突然変異を含む新たな突然変異の有無まで、高速・高精度に同定できます。この網羅的突然変異検出法は、原理的にはマウスと同等かそれより小さなゲノムを持つすべての生物種にも応用可能であり、大きな可能性を秘めています。

3)論文情報

Ohno M, Sakumi K, Fukumura R, Furuichi M, Iwasaki Y, Hokama M, Ikemura T, Tsuzuki T, Gondo Y, Nakabepppu Y.
8-oxoguanine causes spontaneous de novo germline mutations in mice.
Scientific Reports, 2014, doi:10.1038/srep04689

  

【用語解説】

註1)次世代DNAシーケンシング:
DNAシーケンシングは1970年代に始まり、1995年に本格的に開始したヒトゲノム計画開始によってその自動化も進んだ。400年はかかると思われていたこの壮大な計画が、2001年には概要版発表にまで進展したことも、記憶に新しい。2005年ころから、ヒトゲノムなどをさらに安く短期間に解読することを目指し「1000ドルシーケンシング」と呼ばれる技術開発が進んだ。これを次世代DNAシーケンシングと呼んでいる。
註2)ゲノム:
全遺伝情報を伝えるため、それぞれの生物種は固有のゲノムをもつ。ゲノムの実体は、超高分子のDNAである。DNAには4種類の塩基(グアニン、アデニン、チミン、シトシン)の並び順によって遺伝情報が記載され、ヒトやマウスなどほ乳類では、卵にも精子にも約30億塩基が文字として並んでいる。グアニン(G)はシトシン(C)と、アデニン(A)はチミン(T)と必ず対合を作って二重らせん構造を成している。二重らせんDNAは、細胞分裂の度に、全体が正確に一回複製される。そのときに塩基の対合によって超高分子DNA全体が、全く同じ30億塩基対の並びに複製される。そして、全遺伝情報が細胞から細胞へ、そして、親から子へと全く同じに遺伝する。
註3)突然変異:
新たな生命は、30億塩基対のゲノムDNAを、卵と精子両方から2セット受け継いで始まる。こうして生まれた60億塩基対のゲノムDNAを持つ受精卵は、細胞分裂を繰り返し、60兆細胞からなる成体へと成長する。ゲノムDNAのすべての塩基対配列は、細胞分裂の度に正確に複製され、細胞から細胞へ、そして、親から子へと、全く同じ60億塩基対のDNA配列が受け継がれていくが、ごくまれに、その配列が間違って受け継がれる。これが突然変異である。
註4)酸化ストレス:
生まれたての地球の大気にはほとんどなかった酸素が、植物の出現により20%を占めるまでに上昇した。生き物を構成する生体高分子は、酸化に弱く壊れてしまいがちである。こういった「毒性の高い」酸化ストレスから、DNAを何重にも守るように生命は進化してきた。そのために、大腸菌のようなバクテリアからヒトやマウスなど高等動物にいたるまで、酸化ストレスから生命を守るために、同じ機能をもった遺伝子が多く保存されている。
註5)生殖細胞突然変異:
受精卵から細胞分裂を重ね発生し成体となる過程で、特定の細胞系譜だけが卵や精子に分化する。これを生殖細胞と呼ぶ。この生殖細胞系譜に生じた突然変異は、その卵や精子がまた受精し個体になることで、次の世代の、しかも60兆細胞すべてに遺伝する性質を持つ突然変異である。一方で、生殖細胞系列以外の細胞、例えば脳や肝臓といった細胞系譜に生じた変異は、体細胞突然変異と呼ばれ、がんの原因になったりすることはあるものの、子孫に伝わることはない。マウスでの生殖細胞突然変異は、7遺伝子程度の可視突然変異を用いた実験から1世代・1塩基対当たり1.1×10-8個程度と間接的に推定されている。