時間的に離れた2つの出来事の連結を調節するアイランドセルの発見
-記憶の連結を調節する仕組みの解明へ大きく前進-

理化学研究所脳科学総合研究センター(BSI)とバイオリソースセンター(BRC)の共同研究成果が、2014年1月23日、米国の科学雑誌「Science」のオンライン版で論文発表されました。

この論文は、BSIの利根川進センター長、BSI理研-MIT神経回路遺伝学研究センター(BSI-MIT)の北村貴司研究員らの研究グループとの共同研究の成果で、BRCからは、旧動物変異動態解析技術開発チーム 阿部訓也 チームリーダー、実験動物開発室 吉木淳 室長が貢献しています。

また、筆者には含まれていませんが、小幡裕一 センター長、旧動物変異動態解析技術開発チーム 三瀬名丹 開発研究員(現在の所属は自治医科大学)も協力しています。

本研究成果全体の概要は、理化学研究所プレスリリースをご参照下さい。

時間的に離れた2つの出来事の連結を調節するアイランドセルの発見
時間的に離れた2つの出来事の連結を調節するアイランドセルの発見 理研は、大脳嗅内皮質-海馬間において、記憶の連 結と分離を調節する新たな神経回路を発見しました。続きを見る...

BRCには大腸菌人工染色体(Bacterial Artificial Chromosome: BAC)を用いたゲノム改変技術によるCreマウスの作製とCre組換え酵素の発現部位の組織学的な解析に関する専門知識・技術の蓄積があります。本研究の中で、BRCは、この専門性を活かして大脳嗅内皮質において「アイランドセル」に特異的なWfs1-Creマウスの作製とCre組換え酵素の組織発現解析を担当しました。


Wfs1-Creマウスの作製

BRCでは、2008年から2012年にかけて、BSI-MITとの共同研究により神経回路遺伝学に用いる脳の亜領域特異的なCreマウスを39種類128系統開発しました。

BSI-MITでは、大脳嗅内皮質第II層のアイランドセルとオーシャンセルはWfs1遺伝子の発現の有無により識別できることを発見。

そこでWfs1遺伝子を発現する細胞で特異的にCre組換え酵素を発現するWfs1-Creマウスを共同開発しました。このWfs1-Creマウスの大脳嗅内皮質表層にCre組換え酵素により蛍光標識および光操作用タンパクを発現するアデノ随伴ウイルスを微量注入することにより、アイランドセルを特異的に蛍光標識し、さらに光による活性化や抑制をすることに成功しました。

一連の実験の結果、アイランドセルは海馬のCA1領域の限られた層(SL層)に軸索を投射する興奮性神経細胞であり、そのSL層に位置する抑制性神経細胞とシナプスを作ることで、海馬に対して抑制的に働くことが明らかになりました。


このように脳亜領域特異的なCreマウスは、他の最新技術と組み合わせて、今後も脳の神経回路の正確な構造や機能の解明に中心的な役割を果たすと期待されています。


論文情報

Kitamura T, Pignatelli M, Suh H, Kohara K, Yoshiki A, Abe K, Tonegawa S.
Island Cells Control Temporal Association Memory
Science, 2014 Feb 21, 343: 896-901, doi; 10.1126/science.1244634