ミッションと概要

 当研究室では、BRCが各リソース、特に実験動物および幹細胞をより高度なクオリティにて維持供給するために必要な遺伝関連技術開発を行う。
また、これらの技術が広く研究コミュニティに活用されるべく、研修事業を行う。

技術開発

  1. 体細胞核移植クローン技術の開発
  2. 顕微授精技術の開発
  3. 効率的な胚・配偶子の凍結保存法の開発
  4. 新規幹細胞の確立
  5. 技術研修

研究内容 2013年版

1.体細胞核移植クローン技術の開発

 昨年までに、マウス体細胞核移植(SCNT)初期胚では雌細胞のX染色体不活性化に関与するXist遺伝子の異所性発現が生じることを明らかにした。この原因を明らかにするため、さまざまな発生段階の生殖細胞や体細胞の核移植胚を解析したところ、ほとんどの核移植胚でXistの異所的発現が見られ、成長完了卵の核移植胚でのみ発現が抑制された。この結果から、Xistの発現抑制には、卵成長の最終期に確立される発現制御機構が必要であることが示された。
 着床前のマウスSCNT胚は、ドナー細胞種に由来する遺伝子発現異常を示すことが知られているが、着床直後の胚体外組織ではそれらの発現異常が改善されていることを明らかにした。これは着床期の胚体外組織において大規模な遺伝子発現の変化が起きていることを示唆しており、着床および胎盤形成の分子機構の解明が期待される。

2.顕微授精技術の開発

 マウスでは顕微授精技術を用いることで円形精子細胞からも産仔が得られることが知られている。しかしその産仔率は精子を用いた場合と比較して低率である。マウス前核期胚におけるDNAメチル化レベルを免疫染色により観察を行ったところ、既報通り、精子注入(ICSI)胚では雄性前核で能動的DNA脱メチル化が起こり5-methylcytosine (5mC) の発現が消失し、5-hydroxymethylcytosine (5hmC) が増加していた。一方、円形精子細胞注入(ROSI)胚では、ICSI胚と同じ正常パターンを示す胚(図A)と、5mCレベルが高いまま5hmCレベルが上昇している胚(図B)の2パターンが観察された(図C)。今後、このROSI胚のエピジェネティック異常が技術的な要因によるものか、選んだ円形精子細胞の違いを反映しているのかを明らかにしていく。


図1. ROSI後の雌雄両前核の5mCおよび5hmC レベルの比較(注入後10時間)
(A)雄性前核(M)で5mCの低下と5hmCの上昇が見られるパターン。
(B) 雄性前核(M)の5mCの低下は見られず、5hmCの上昇が見られるパターン。
(C) 全てのICSI胚(右)が同一胚における5mCと5hmCの関係において正常なパターンを示したのに対し
ROSI(左)ではICSI胚と同様のパターンとROSI胚特異的なパターンの2つが認められた。

3.効率的な胚・配偶子の凍結保存法の開発

 精子形成異常のマウス系統や凍結された精子など,十分な精子数を確保できない場合に有効な体外受精法として、卵子3または5個を入れた1 µlの微小滴にキャピラリを用いて前進運動性を示す5-50精子を導入する方法を新規開発した。本法により、通常の体外受精に必要な1/1000以下の精子量で受精卵の獲得が可能となった。また、2011年度より進めてきた野生由来系統マウスのガラス化保存胚からの産子獲得はMus musculusの38系統、異種であるMus spretusの1系統、Mus spicilegusの2系統で成功した。これらは系統ごとに効率的な過排卵誘起および受精卵作出、胚移植の各方法を選択して利用することで実現できた。

4.新規幹細胞の確立

 trophoblast stem cells(TS細胞)は、胚盤胞の栄養外胚葉から樹立される。一般に、TS細胞は扁平形のコロニーを形成すると言われているが、詳細に実際のコロニーを観察すると、主に5種類のタイプに分類できることが明らかになった。そこで、それぞれのタイプにおけるTS細胞未分化マーカーであるCdx2の発現を解析したところ、コロニー形態に応じて、ほぼ予想通りの発現レベルが確認されたが、一部、形態が崩れたコロニーでも高発現が観察された。今後、各コロニータイプの網羅的な遺伝子発現と形態の遷移について明らかにし、最も未分化と考えられる形態を同定する予定である。

5.技術研修

平成24年度および25年度において、所外からの研修生を対象に以下の研修を行った。

  • 24年10月 「マウス精子・胚の凍結保存方法に関する技術研修」
  • 25年3月 「マウス精子・胚の凍結保存方法に関する技術研修」
  • 25年11月 「マウス顕微授精技術に関する技術研修」
  • 25年12月 「マウス顕微授精技術に関する技術研修」